指揮者の部屋
2022年11月13日 13:45
Ⅰ はじめに 伊勢管弦楽団では、2022年12月25日のクリスマスに「宗教改革」交響曲を演奏する機会をいただきました。メンデルスゾーンの生涯については、以前に指揮者の部屋で紹介し、拙著にも転載しましたので、ご一読いただければ幸いです。ベートーヴェンの第9交響曲第4楽章の前に「宗教改革」を演奏するという意図としては、ベートーヴェンが第9で歌い上げている人類愛とメンデルスゾーンのキリスト教への傾倒に共通する要素が少なくないことがあります。そこで、「宗教改革」の成立の背景から述べたいと思います。Ⅱ 「宗教改革」交響曲の成立の背景 メンデルスゾーンは、1809年2月3日にハンブルクで生まれた。父のアブ
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2022年04月23日 10:16
譜例はこちらをご覧ください。はじめに 新型コロナウイルスの感染が2年以上にわたって続くという想定外の厳しい状況のもと で、40 周年記念定期演奏会を1年遅れではありますが、2022 年5月 15 日に開催する予定 となりました。マーラーの交響曲第 3 番は、規模の大きいマーラーの交響曲の中でも、演奏 時間約 100 分と最長を誇る曲です。今回の指揮者の部屋では、第 40 回記念定期演奏会が無 事に実現することを祈りながら、交響曲第3番の解説をさせていただきます。 I 成立の背景 ―標題について― 交響曲第3番は、1895 年から 1896...
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2021年11月03日 10:23
はじめに 2021年も、2020年から1年半以上続くコロナ禍で困難の多い年になりましたが、伊勢市民オペラプロジェクト「ヘンゼルとグレーテル」の公演が迫ってきました。緊急事態宣言が再度出されないことを祈りつつ、この傑作オペラの解説をさせていただきたいと思います。「ヘンゼルとグレーテル」は、モーツァルトやヴァーグナーのような天才作曲家によって作曲されたオペラではありません。フンパーディンクの曲のなかで、「ヘンゼルとグレーテル」以外は、ほとんど無名と言っても過言ではないでしょう。でもこのオペラは、初演されてから138年間、世界中で愛されて、演奏され続けています。伊勢管弦楽団としても、伊勢市観光文化会
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2021年04月04日 20:16
譜例をこちらからダウンロードして御覧ください。Ⅰ 第39回定期演奏会のプログラム決定の経緯 2020年から2021年にかけて、ほとんどの音楽団体がコロナ禍の影響を受けましたが、まずこの指揮者の部屋では、伊勢管弦楽団のこの1年あまりの練習や演奏会に関する協議の経緯などについてご報告いたします。伊勢管弦楽団では2020年5月17日に予定していました第39回定期演奏会を新型コロナウイルスの流行のために中止せざるを得なくなりました。練習も2020年3月から約4か月停止となりました。2020年12月13日に開催予定であった第10回松阪第九については、合唱付きの第九は実現不可能でしたが、松阪の第九を主催し
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2020年10月24日 22:49
Ⅰ.はじめに 2020年は、世界中が新型コロナウィルス感染症のため震撼させられた一年となりました。クラシック音楽の世界も同様で、2020年の3月頃から夏までのシーズンはほとんど全てのコンサートがキャンセルとなり、練習も思うようにできませんでした。伊勢管弦楽団も同じ状況で、2020年5月17日に予定していた第39回定期演奏会は延期となりました。2020年12月13日は、本来はクラギ文化ホールで第10回目の松阪第九コンサートが開催される予定でしたが、大人数での合唱は、感染予防に必要な十分な距離が確保できないなどの事情もあり、伊勢管弦楽団が代わりに演奏会を単独で担当させていただくことになりました。
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2020年03月22日 06:48
譜例はこちらからダウンロードして御覧ください。Ⅰ.はじめにプーランクは、20世紀に主流となった調性の不明瞭な曲ではなく、純然とした調性音楽の中で親しみやすい曲を数多く作曲しました。わかりやすくても野暮にならず、魅力あふれる歌や自由闊達な作品を幅広いジャンルで残した20世紀のフランスを代表する作曲家の一人ですが、プーランクの生涯や作品は日本ではなじみが深いとはいえません。そこで、今回の指揮者の部屋では、まずプーランクの生涯を概説し、2台のピアノのための協奏曲について述べたいと思います。Ⅱ.プーランクの生涯 フランシス・プーランクは1899年にパリの中心部で生まれた。父エミール・プーランクは実業家
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2019年03月16日 22:08
譜例はこちらからダウンロードしてご覧ください。はじめにマーラーの交響曲第6番は、ベートーヴェンが完成させた交響曲の古典的形式の中に、19世紀末の大管弦楽によってロマン的情感をこめられて作曲されました。その楽曲構造に少しでも迫りたいと思います。なお、今回の原稿によって、指揮者の部屋の原稿は50稿を超えました。この企画を発案し、ホームページで掲載を設けてくださっている北岡さん、いつも読んでくださっている皆様に心より御礼申し上げます。Ⅰ 動機による全曲の統一性と全曲のバランスについて マーラーの交響曲第6番で際立った特徴は、一つの動機によって、全曲をまとめようとする試みである。すなわち譜例1にあるよ
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2019年02月23日 09:07
はじめにマーラーの交響曲第6番は、マーラーのすべての交響曲の中で悲劇的に曲を終える唯一の作品である。同時に、マーラー研究者の先駆的な存在であるアドルノは第6交響曲の第4楽章を「マーラーの全作品の中心」と呼び、マーラーに関して早期に伝記を書いたパウル・ベッカーは、これを「(第8交響曲のフィナーレに次いで)マーラーが書いた最も偉大な音楽である」としていた。随分以前の記憶で不確かだが、諸井誠氏は、「マーラーの11曲の交響曲は、楽章構成の点からも、また内容的にも二段階的な発展がある。第6番はその中心に位置する傑作である」と指摘されていたように記憶している。すなわち、下記の図に示したように、ともに最初に
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2018年04月08日 00:01
こちらから譜例をダウンロードしてお読みください。はじめにバルトークについて、個人的には20歳の頃から、20世紀前半を代表する最も偉大な作曲家の一人であると感じてきました。私にこの認識を一番強く与えてくれたのは、1936年に作曲された「弦楽器、打楽器とチェレスタのための音楽」でした。緻密な構成力、異常な程の緊張感、感情のコントロールする力の高さ、リズムの独自性などは、バルトークのみならず、他のどの作曲家の曲にもみられないすごさです。今回、ヴァイオリン協奏曲第2番を演奏できる幸運に恵まれました。このヴァイオリン協奏曲は、前述の「弦楽器、打楽器とチェレスタのための音楽」と同時期のバルトーク最盛期の傑
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2018年03月21日 17:25
譜例をダウンロードして御覧ください。はじめにブルックナーについては、これまでにも指揮者の部屋で何度か掲載させていただきました。交響曲第9番をより深く理解していただくためには、2010年3月に掲載したブルックナーの生涯についての記事を、ご一読いただければ幸いです。ブルックナーは、ニーチェが「神は死んだ」と主張した19世紀の混沌とした世界において、比類のない個性的な作曲家です。教会のオルガニストとして長く活動し、神への絶対的信仰を持っていました。演劇的要素が非常に強いヴァーグナーを崇拝しながらも、当時流行的であった文学的潮流とは無縁に作曲をしました。作曲家としては40歳を過ぎてから交響曲の作曲を続
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