指揮者の部屋
2020年03月22日 06:48
譜例はこちらからダウンロードして御覧ください。Ⅰ.はじめにプーランクは、20世紀に主流となった調性の不明瞭な曲ではなく、純然とした調性音楽の中で親しみやすい曲を数多く作曲しました。わかりやすくても野暮にならず、魅力あふれる歌や自由闊達な作品を幅広いジャンルで残した20世紀のフランスを代表する作曲家の一人ですが、プーランクの生涯や作品は日本ではなじみが深いとはいえません。そこで、今回の指揮者の部屋では、まずプーランクの生涯を概説し、2台のピアノのための協奏曲について述べたいと思います。Ⅱ.プーランクの生涯 フランシス・プーランクは1899年にパリの中心部で生まれた。父エミール・プーランクは実業家
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2019年03月16日 22:08
譜例はこちらからダウンロードしてご覧ください。はじめにマーラーの交響曲第6番は、ベートーヴェンが完成させた交響曲の古典的形式の中に、19世紀末の大管弦楽によってロマン的情感をこめられて作曲されました。その楽曲構造に少しでも迫りたいと思います。なお、今回の原稿によって、指揮者の部屋の原稿は50稿を超えました。この企画を発案し、ホームページで掲載を設けてくださっている北岡さん、いつも読んでくださっている皆様に心より御礼申し上げます。Ⅰ 動機による全曲の統一性と全曲のバランスについて マーラーの交響曲第6番で際立った特徴は、一つの動機によって、全曲をまとめようとする試みである。すなわち譜例1にあるよ
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2019年02月23日 09:07
はじめにマーラーの交響曲第6番は、マーラーのすべての交響曲の中で悲劇的に曲を終える唯一の作品である。同時に、マーラー研究者の先駆的な存在であるアドルノは第6交響曲の第4楽章を「マーラーの全作品の中心」と呼び、マーラーに関して早期に伝記を書いたパウル・ベッカーは、これを「(第8交響曲のフィナーレに次いで)マーラーが書いた最も偉大な音楽である」としていた。随分以前の記憶で不確かだが、諸井誠氏は、「マーラーの11曲の交響曲は、楽章構成の点からも、また内容的にも二段階的な発展がある。第6番はその中心に位置する傑作である」と指摘されていたように記憶している。すなわち、下記の図に示したように、ともに最初に
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2018年04月08日 00:01
こちらから譜例をダウンロードしてお読みください。はじめにバルトークについて、個人的には20歳の頃から、20世紀前半を代表する最も偉大な作曲家の一人であると感じてきました。私にこの認識を一番強く与えてくれたのは、1936年に作曲された「弦楽器、打楽器とチェレスタのための音楽」でした。緻密な構成力、異常な程の緊張感、感情のコントロールする力の高さ、リズムの独自性などは、バルトークのみならず、他のどの作曲家の曲にもみられないすごさです。今回、ヴァイオリン協奏曲第2番を演奏できる幸運に恵まれました。このヴァイオリン協奏曲は、前述の「弦楽器、打楽器とチェレスタのための音楽」と同時期のバルトーク最盛期の傑
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2018年03月21日 17:25
譜例をダウンロードして御覧ください。はじめにブルックナーについては、これまでにも指揮者の部屋で何度か掲載させていただきました。交響曲第9番をより深く理解していただくためには、2010年3月に掲載したブルックナーの生涯についての記事を、ご一読いただければ幸いです。ブルックナーは、ニーチェが「神は死んだ」と主張した19世紀の混沌とした世界において、比類のない個性的な作曲家です。教会のオルガニストとして長く活動し、神への絶対的信仰を持っていました。演劇的要素が非常に強いヴァーグナーを崇拝しながらも、当時流行的であった文学的潮流とは無縁に作曲をしました。作曲家としては40歳を過ぎてから交響曲の作曲を続
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2017年11月19日 10:23
以下の原稿は、2017年12月10日に演奏予定の「松阪の第九」において、プログラムの挿み込まれる予定の原稿で、以前に執筆したものに修正を加えたものです。よろしければ御一読ください。 クラシック音楽の歴史上、天才の大作曲家は数え切れないほどいます。その中でもベートーヴェン(1770-1827)の偉大さは傑出しています。それぞれの作品の完成度の高さとその多さ、生涯にわたって充実した創作活動を続けてどんどん高みに達していること、自由・博愛のみならず、超越的なものへの視点を持ち続けるその精神の崇高さ、後世への影響力、19世紀から現代まで続く演奏頻度の高さなど、どれをとってもあり得ない超ハイレベルです
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2017年04月09日 21:30
はじめにリヒャルト・ヴァーグナーについて、その音楽や人間に関する好き嫌いはあっても、音楽の圧倒的な存在感、巧みな過剰なほどの心理表現能力、音楽・文学・演劇の完璧な融合、後世への影響力などからみて西洋音楽史上最も重要な一人ということに異論を唱える人はほとんどいないでしょう。ヴァーグナーの作品で現在よく演奏されるのは10曲余りしかありません(全部で16時間くらいかかる「ニーベルングの指輪」4部作を4曲とみなしてですが)。とは言っても、その10曲余り全てが素晴らしく、全ての楽劇において、ヴァーグナー自身が台本も作っているという点でも、他に比べようがない大作曲家ということになります。今回演奏する「聖金
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2017年03月19日 21:41
はじめに 伊勢管弦楽団の定期演奏会ではブラームスの交響曲をこれまでに5回、演奏してきました。演奏は第4番、第2番、第1番、第4番、第3番の順で、今回の第2番は6回目になります。最初2回はそれぞれ指揮に山田一雄先生、黒岩英臣先生をお招きしたので個人的な発言をお許しいただけるなら、指揮者である私の立場としてはブラームス・チクルスが、本当に皆様のお陰で一応完成ということになります。このような作曲家は、私にとってはブラームスが初めてですが、ブラームスは、4つの交響曲すべてが多くの人々に愛され続けてきた作曲家といえるでしょう。 ブラームスの生涯やその音楽については、交響曲第3番についての「指揮者の部屋」
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2017年01月22日 18:46
はじめに 伊勢管弦楽団の36回の定期演奏会ではリヒャルト・シュトラウス(以下シュトラウスと略)の「ばらの騎士」をメインに演奏します。伊勢管がシュトラウスの作品を演奏したのは、第5回定期でのホルン協奏曲第1番と、アンコールで演奏した2つの歌曲だけで交響詩などは一回も演奏していません。したがって、伊勢管にとって今回はほとんど初めてのシュトラウスと言っていいでしょう。シュトラウスは管弦楽曲とオペラの両方の領域で多くの作品を後世に残し、しかもその両方の領域とも愛されている曲が多いという点で、モーツァルトと双璧の作曲家であり、オーケストラを愛するものにとって、非常に重要な作曲家です。しかも、「ばらの騎士
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2016年03月20日 09:04
<<譜例はこちらからダウンロードしてください。>>
はじめに
マーラー(1860-1911)の交響曲第2番「復活」は、100名以上を要する大合唱、トランペットとホルンが10名、ハープが2台、ティンパニが2セット必要などというように演奏規模が大きく、演奏企画に相当の準備が必要であることにもかかわらず、演奏される機会は近年相当に増えており、マーラーの11曲の交響曲の中で特に好んで演奏されています。1970年代以降マーラーの演奏回数が急激に増え、マーラー・ブームなどといわれましたが、最近の交響曲第2番「復活」の演奏頻度の多さは、ブームという事象などを超えて、この曲がベートーヴェン、ブラームス、チャ
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