三重県伊勢市を本拠地として活動するアマチュアオーケストラです。


ブラームスの交響曲第2番

2017年03月19日 21:41

はじめに

 伊勢管弦楽団の定期演奏会ではブラームスの交響曲をこれまでに5回、演奏してきました。演奏は第4番、第2番、第1番、第4番、第3番の順で、今回の第2番は6回目になります。最初2回はそれぞれ指揮に山田一雄先生、黒岩英臣先生をお招きしたので個人的な発言をお許しいただけるなら、指揮者である私の立場としてはブラームス・チクルスが、本当に皆様のお陰で一応完成ということになります。このような作曲家は、私にとってはブラームスが初めてですが、ブラームスは、4つの交響曲すべてが多くの人々に愛され続けてきた作曲家といえるでしょう。

 ブラームスの生涯やその音楽については、交響曲第3番についての「指揮者の部屋」で述べたので、今回は交響曲第2番の成立の背景を述べて、曲の構成を分析することに重点を置いて、書かせていただきます。


Ⅰ 交響曲第2番の成立の背景

 ブラームス(1833-1897)は、子どもの頃からピアノの才能に恵まれていたが、家庭は経済的に苦しく13歳の時には、酒場やダンスホールでピアノを弾いて家計を助けるなどの苦労もしてきた。性格的にも内省的であったブラームスは、完成された世界への憧れやこだわりを持っていた。ブラームスにとって特にベートーヴェンは最大の神様であっただけに、ベートーヴェンが巨大な足跡を残した交響曲や弦楽四重奏曲の作曲には、膨大な年月をかけてその準備をした。よく知られているように、交響曲第1番は構想から完成までに21年という他に比較しようのないほどの長期間を要している。第1番の調性のハ短調は、明らかにベートーヴェンの交響曲第5番を意識したものであった。1876年にようやく完成された交響曲第1番と比較して、翌年の1877年夏に南オーストリアのヴェルター湖畔のペルチャッハで3ヶ月余りという短期間で作曲された第2番は、調性もニ長調であり、他のブラームスの交響曲と比較すると断然明るい。第1番の構想中に、ドイツ・レクイエムをはじめ、多くの作品を作曲しながら、その構想が深められて言わば難産の上、完成されたのと対照的であった。第2番とほとんど同時期に作曲された作品としては、同じニ長調のヴァイオリン協奏曲(1878年)、ヴァイオリン・ソナタ第1番ト長調(1878年)などがあり、自分の気持ちを抑圧して表現することが多かったブラームスの作品群の中で、当時の作品には明るく幸福感にあふれた曲が多い。そのような作品の中でも、交響曲第2番は第2楽章にみられる複雑で屈折した表現など多彩で、ブラームスの幅広い魅力を表現している曲でもある。


Ⅱ 曲の解説

第1楽章 アレグロ・ノン・トロッポ ニ長調 4分の3拍子

 冒頭の低弦によるレ―ド♯―レの動機(譜例1のA)が第1楽章のみならず、全曲を支配する重要な動機であることはよく知られている。この短2度の音程だけではなく、レ-ラという完全4度の音程も特に第4楽章で重要な役割を占めることになる。この低弦による主要動機に続いて、すぐにホルンで牧歌的な第1主題が奏でられる。譜例1のB(ミ-ファ♯-ミ)はAの反行形であるが、Aの動機と同様に非常に重要な役割を果たす。また6小節の動機(ラ-シ-ド♯)も同様に活躍する。44小節でヴァイオリンに現れる譜例2の主題は、第1主題のように聴こえるが、副主題として理解するべきであろう。やはりAの動機が入れ込まれている。チェロとヴィオラによって演奏される第2主題(譜例3)は、美しい中に陰影があり、第1主題5小節目の上昇する音程とは逆の、下降する音程を含んでいる。冒頭Aの動機は、拡大されて第2主題旋律の半ばに現れる。続く譜例4と5は、冒頭の動機、つまり第1主題から派生してきているのは、言うまでもない。譜例6とその反行形の旋律(ファ-ミ-ファ―ミ-レ♯-ミ―レ-ド♯-レなど)は展開部に入ってから活躍する。展開部のクライマックス(譜例7)では、冒頭動機と第1主題がぶつかって、ヘミオラ(つまり2小節をまとめてそれを3つの拍にするような表現で、シューマンがピアノ協奏曲の第3楽章に多用したリズム)のような表現となる。この部分に限らず、この交響曲第2番は、リズムの工夫がいたるところでみられる。再現部は、ほぼ提示部と同じように再現されるが、コーダ(終結部)におけるホルンのソロ、弦楽器の豊かで情熱的な響きが印象的である。 





第2楽章 アダージョ・ノン・トロッポ ロ長調 4分の4拍子

 ロ長調の楽章であるが、冒頭は暗く緊張感をもって始まり、チェロによる下降形の動機とファゴットによる上昇形の動機がいきなり同時に奏でられる(譜例8)。譜例9~11のような旋律が次々に現れて、複雑で多彩な感情表現がなされる。第2楽章冒頭の主題はもちろんのこと、譜例9のホルンで拍の頭に現れるミ-ファ♯-ミも譜例11のシ-ド-レ、レ-ミ-レ、レ-ド♯-レもすべて、第1楽章の主要動機に関連している。この明るい交響曲第2番の中で、最も重い楽章となっている。




第3楽章 アレグレット・グラツィオーソ ト長調 4分の3拍子

 メヌエットのような3拍子で優雅に始まる(譜例12)。第1楽章冒頭動機の転回(反行形:シ-ド-シ)となっているが、その後、テンポもリズムも変化が大きく、スケルツォのような部分もあって、一種の変奏曲とみなすのがよいだろう。



第4楽章 アレグロ・コン・スピーリト ニ長調 2分の2拍子

 弦楽器によりpで演奏される冒頭の第1主題(譜例13)は、第1楽章冒頭の例の動機で始まる。5,6小節では下降4度が連続し、この下降4度の連続は、他の主要動機でも頻繁にみられる(譜例14、15)。第4楽章では、主題の反行形はさらに徹底的に使用されており、譜例17は譜例13の反行形、譜例18は譜例14の反行形となっている。第2主題(譜例16)は、対照的に幅広い(largamente)性格のものであるが、最後の重要な主題が、譜例1のAとBを同時に出して、その新しい世界を表現するという驚くべき内容となっている。このような動機の徹底的活用は、30年後におけるシェーンベルクらによる12音音楽技法にも大きな影響を及ぼすことになる。第1主題とこの第2主題が最後にからみあって、華麗に曲を終える。



おわりに

 ブラームスの交響曲第2番は、大学のオーケストラを始め、プロ、アマチュアを問わず多くのオーケストラが非常によく取り上げる曲ですが、バランスのとれた完成度の高い感動的な演奏をすることは、ブラームスの交響曲の中でも相当難しいとも思います。同時に非常に勉強になることも多い曲なので、志摩市と伊勢市の2回で、演奏ができることも生かして、よりレベルの高い表現をめざしたいと思います。


伊勢管弦楽団  音楽監督  大谷 正人

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