三重県伊勢市を本拠地として活動するアマチュアオーケストラです。


フォーレの管弦楽組曲「ペレアスとメリザンド」

2014年08月31日 20:34

はじめに

 フォーレ(1845-1924)は室内楽、歌曲、ピアノ曲のジャンルで素晴らしい傑作を多く残した大作曲家です。ただ以下に名前があがっているドビュッシーのようにフォーレの音楽をサロン音楽として、批判する人たちも一部にはいました。しかし、フォーレの音楽のもつ優しさ、高貴さ、繊細さ、そして現世の利害などではない、もっと遠く深い世界をみつめるその姿勢などは、他の作曲家にはないフォーレ独自の魅力であり、フォーレのレクイエムをはじめとする傑作は、将来にわたっても、忘れ去られる事はありえない永遠の輝きをもった音楽だと思います。

フォーレの管弦楽作品は、劇音楽が中心です。1893年にフォーレはサン=サーンスに「舞台のための付随音楽が、私のささやかな才覚にどうやら見合う唯一のものです!」と謙虚に手紙に書いていました。管弦楽作品の数は多くはありませんが、「ペレアスとメリザンド」はそれらの中で代表作として認められています。フォーレの生涯については以前レクイエムについての文章(12回目の指揮者の部屋)で述べたので、今回は2014年12月23日に演奏する予定のフォーレの管弦楽組曲「ペレアスとメリザンド」について、触れたいと思います。

 

Ⅰ 「ペレアスとメリザンド」の成立の背景

「ペレアスとメリザンド」は、ベルギーの劇作家モーリス・メーテルリンク(1862年生まれで童話劇「青い鳥」で有名)が書いた戯曲で、1892年に出版されて1893年にパリで初演された。ドビュッシー(1862-1918)は、この戯曲が初演された頃からオペラ「ペレアスとメリザンド」の作曲に取り掛かっていた。イギリスの女優キャンベルは、ロンドンで「ペレアスとメリザンド」を上演し、自らはメリザンドを演じるにあたり、劇音楽が是非必要ということで、ドビュッシーに劇音楽の作曲を打診し、よい返事がもらえないと次の候補としてフォーレを考えていた。ドビュッシーはその依頼を断わるに際して、出版者のアルトマン宛の手紙で、次のように述べていた。

「私の音楽は彼らの公演には向かないように思えるのです。多くのものが詰め込まれると、混乱をきたすだけで、単に鈍重なものとなってしまいます。それにフォーレは、もう一つの『ペレアス』を作ったところで、何もできないに決まっている、スノップで間抜けな連中の代弁者にすぎないのですから…。」

 キャンベル夫人は、そこで1898年3月にロンドンに来ていたフォーレに作曲を依頼し、フォーレは承諾したが、フォーレはパリ国立音楽院での仕事やマドレーヌ寺院でのオルガニストとしての仕事でも多忙で、「ペレアスとメリザンド」のロンドン初演も迫っていた。そこで、オーケストレーションについては弟子のケックランの助けを借りて、1898年6月のロンドン初演に間に合わせた。

 1898年から1900年にかけて、フォーレは「ペレアストメリザンド」の付随音楽から「前奏曲」「糸を紡ぐ女」「メリザンドの死」の3曲を選んで管弦楽用の組曲とした。この時は、フォーレ自身がオリジナルの室内オーケストラ用から二管編成用に拡大して編曲し直した。1901年の初演後に「シシリエンヌ」「メリザンドの歌」の2曲を加えて5曲編成としたが、「メリザンドの歌」のみ声楽が入っているため、それをはずした4曲編成で演奏される方が多い。その繊細な美しさ、優しさなどのため、フォーレの管弦楽曲の中で最も多く演奏されている曲である。

 

Ⅱ 「ペレアスとメリザンド」のストーリー

第1幕

中世ヨーロッパのアルモンド王国の国王の孫ゴローは狩に出たが、森の中で長い髪の若く美しい女性メリザンドが泣いているのを見つける。ゴローはメリザンドを連れ帰り、数日後にメリザンドを妻にすることを祖父の国王アルケルに求め、認められないなら王国を去ることを手紙で告げて、アルケルと母ジュヌヴィエーヴから結婚の許可を得る。メリザンドは城に案内されて、ゴローの弟の王子ペレアスと知り合う。

第2幕

 メリザンドは城での生活が不安であったが、ペレアスと親しくなり城の庭の泉に行って、冷たい水と戯れる。そのうちにゴローからもらった指輪を誤って水の中に落としてしまう。狩からもどったゴローは、メリザンドの指に結婚指輪が無い事に気づき問い詰めるが、メリザンドは「海辺で落とした」と嘘をついてしまう。

第3幕

 夜に城の塔の上でメリザンドが歌を歌いながら髪を梳かしているとペレアスが下から呼びかける。メリザンドが窓から体を乗り出すとメリザンドの長い髪が垂れ下がり、ペレアスはその髪を手にとって愛撫する。そこにゴローが通りかかり二人の行動をたしなめる。ゴローはペレアスにメリザンドの妊娠を告げて、メリザンドに近づかないように警告する。その夜、ゴローが先妻の子イニョルドを肩の上にもちあげて、メリザンドの部屋を覗かせると、そこにはペレアスも一緒にいたことがわかってしまう。

第4幕

 ペレアスは明日遠くへ旅立つつもりで、その前に今晩泉で会いたいとメリザンドに告げる。アルケルは入れ替わりに入ってきて、メリザンドと話しメリザンドの境遇を哀れがる。そこにゴローがやってきてメリザンドをなじり、その髪を引きずり回すが、アルケルに制止されてゴローは部屋から出て行く。メリザンドはもうゴローを愛していないことをアルケルに話す。夜になり、泉で待つペレアスのもとにメリザンドが現れ、二人は抱き合うが、そこへゴローが現れ、ペレアスを刺し殺し、メリザンドも傷を負ってしまう。

第5幕

 子を産んで瀕死のメリザンドにゴローはペレアスとの仲を問いただす。「愛してはいたが、罪は犯していない」と答えて、メリザンドはその後一人になり静かに息を引き取る。泣き崩れるゴローにアルケルは「この子が代わりに生きるのだ」と慰め、生まれたばかりの子どもを抱いて出て行き幕となる。

 

Ⅲ 組曲の構成(4曲編成版)

  • 前奏曲(Prélude)

ト長調、3/4拍子。Quasi adagio、劇の第1幕があく前に演奏される。冒頭のメリザンドの主題は、優しさ、繊細さ、はかなさを象徴している。第2主題は「運命」の主題で、フルート、ファゴット、チェロによって奏でられる。フォルティッシモ・エ・アラルガンドでクライマックスになった後、静まりホルンが変ホの音を続けるところで劇では幕があくが、このホルンの角笛はゴローを暗示する。

  • 糸を紡ぐ女(Fileuse)

ト長調、3/4拍子、Andantiono quasi allegretto、第3幕のはじめに演奏される。糸を紡ぐ女とは、メリザンドのことで、実際オーボエで奏でられる旋律は、前奏曲冒頭のメリザンドの主題と関連が深い。弦による6連譜による細かい伴奏の動きが、糸を紡ぐ糸車の動きを象徴する。中間部のホルンで始まるト短調の旋律は、第4曲「メリザンドの死」の中のヴァイオリンによる悲しさをたたえた主題と関連があり、メリザンドの後の悲劇を暗示する。

  • シシリエンヌ(Sicilienne)

ト短調、6/8拍子、Allegretto molto moderato、第2幕でペレアスとメリザンドが泉のほとりで戯れる場面の前奏曲として演奏された。シシリエンヌはフランス語で、イタリア語ではシチリアーナ、すなわち「シチリアの」の意味で、6/8拍子か12/8拍子の付点リズムが特徴的な牧歌的な舞曲である。もともとは、未完となった劇付随音楽「町人貴族」のために作曲されたものであるが、ペレアスとメリザンドの瞬時の幸せな場面の前に演奏される曲としても、違和感のない音楽である。フォーレ自身が、ピアノ・ソロ用、及びチェロとピアノのデュオ用にも出版しており、フォーレの曲の中でも最もよく知られた名曲である。

  • メリザンドの死(La Mort de Mélisande)

ニ短調、3/4拍子、Molto adagio、第5幕への前奏曲として、メリザンドの死を予告する葬送の音楽。複付点8分+32分音符というリズムが葬送を象徴するが、フォーレはこのような場合、基本的に上昇音程を使用して、悲しみを昇華していく。最後には、フルートが高貴な簡潔さを持った上昇音型によって、悲しみの中、天に昇っていく。

 

伊勢管弦楽団  音楽監督 大谷 正人

—————

戻る